前回、地理的な見方や考え方の必要性を強調しましたが、今回からはそれが具体的にどういうことなのかを見ていきたいと思います。
歴史は時間軸に即した見方であるのに対して、地理が空間軸からの見方であることは言うまでもありません。したがって地理的な視点の一つに、事象を位置や分布から捉えることがあげられます。例えば一般に、都市の中心部には高層のビルが建ち並んでいますが、周辺へ行くにしたがって徐々に低層化し、郊外になると戸建ての低層住宅に変わっていきます。さらに離れると農地が広がっており、建物の分布には中心部からの距離といった位置が大きく関連していることがわかります。こうした事情が見られる背景として地価や地代など、経済の空間的な側面があり、それは私たちの生活に深く関わっています。コンビニの立地はわかりやすい例でしょう。集客力のある位置にあるかどうかが、重要な因子となるからです。
次に、都市自体の分布について考えてみましょう。都市の分布が読み取れる日本地図を見てみると、東京、大阪、名古屋の三大都市周辺に集中しており、とりわけ東京50km圏には日本の人口の4分の1が住んでいます。三大都市圏だけで全国の人口の半分近くを占めて、札幌、仙台、福岡など地方の中核となる都市が散在するものの、日本はやはり偏りの大きさが目立ちます。例えば、人口8400万人近くのドイツでは、最大の都市ベルリンでさえ350万人ほどで、ハンブルクやミュンヘン、ケルンなど、国土の各地に中核となる都市が偏りなく分布しています。地震をはじめ自然災害に見舞われることの多い日本の現状を考えると、偏在する都市の分布が大きな課題であることにあらためて気付きます。
位置については、中心との距離だけでなく相対的な関係が重要になることがあります。それは、本年始まったロシアのウクライナ侵攻でにわかに注目されるようになった、地政学的な視点です。日本では戦前期に地政学が軍国主義と結びついた経緯から、取り上げられることは少なかったようですが、確かに隣国がどのような国なのか、海洋への隔たりがどの程度なのかといったことは、その国の国際関係や外交・軍事に大きな影響をもたらします。世界史からは、大国プロイセン・ロシア・オーストリアによるポーランド分割やロシアの不凍港を求めた南下政策などを引き合いに出すことができるでしょう。また、トルコがウクライナ侵攻において仲介役を買って出ることができたのも、1936年に署名された「海峡制度に関する条約」(モントルー条約)で、ボスポラス海峡とダーダネルス海峡を領土内に有するトルコには強い権限が与えられているからです。両海峡は黒海と地中海を結びつける結節的な役割を担っており、そうしたトルコのもつ地政学的な重要性が背景にあります。
アジア(右手)とヨーロッパ(左手)の境となるボスポラス海峡
イスタンブールには3つの橋が架かっている。
手前に見えるのは第一大橋で、奥には第二大橋も見える。
(2015年に筆者撮影)