事務所のある奥沢は借景に恵まれている。
家々の庭先には木木が多く、春には緑がいっそう濃くなり、チューリップ、パンジーなどで彩られる。
この地が思いのほか気に入り、ウィークデイをここで過ごし、週末には市川の我が家に帰る生活をしている。
この家は持ち家であるが、定着感をもてないでいる。
いわゆる二重生活をするようになって長くなってしまった。
向田邦子の短編小説に、妻のいる家と妾宅とを行き来する作品があり、男の心情が理解でき面白く読んだ。私の場合は残念ながら色っぽい相手ではなく妹ではあるが・・
若い頃「わが町」というようなタイトルのエッセイを読んだ記憶がある。
その響きに憧れ自分もそのような町を持ちたいと思った。
が、あれから大分経ち、住む場所も色々変わりイイ歳になった今もそう呼べる町を持てないでいる。
二つの住まい、町をいったりきたり浮遊しているのは何故か? ひとつの処に落ち着いてしまいたくない自分が見えてくる。
晩年には終の住処を持つのだろうか? そこが「わが町」になるのだろうか?
いやそうなってもフラフラしているのかも知れない。