青春と 青春と 映画

池端忠司

神奈川大学 法学部 教授

1. 『ジョーカー』とロマン主義的ポピュリズム

2022年07月22日

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Amazonプライムで『ジョーカー(原題: JOKER)』(2019年)を観ました。哀しい映画でした。

きっかけは、2021年のハロウィーンの日に、24歳の若者が電車の中で暴行を働き、火をつけたあの事件。犯人が映画の主人公にあこがれて衣装を真似たと言ったことです。

 

いま、アメリカのポピュリズムについての本を訳しています。

その中で、映画監督フランク・キャプラに言及していますが、彼の作品の中で『群衆(原題: Meet John Doe)』(1941年)、『スミス都に行く(原題: Mr.Smith Goes to Washington)』(1939年)などには、エリートが政治をだめにしており、普通の人々の政治参加こそが政治を良くするという思想への礼讃が見えます。

「普通の人々」を極端に英雄視するものですが、アメリカの民主主義の伝統には、このようなロマン主義的ポピュリズムの流れがあるようです。

 

一方『ジョーカー』では、英雄であるべきアーサー・フレック(映画の主人公)があまりにも惨めな境遇です。私生児(いまでいえば非嫡出子)であり、母の介護者であり、精神を病んでおり、売れない道化師なのです。

その姿に、『白痴』のムイシュキン公爵が重なります。