おとなのための地理学

西脇保幸

横浜国立大学 名誉教授

第6回 「地域」と一言でいっても・・・

2023年07月11日

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自然現象や人間の諸活動が複雑に展開する地球ですが、空間の一区画に共通する事象がみられるとき、そこを私たちは「地域」と呼んでいます。地域として区切ることによって、空間の特色が分かりやすくなるからであり、地域は空間に関する情報を整理する手段になっています。

 

例えば山地が広く見られると山岳地域、農業生産が一様に展開されていると農業地域、イスラム教徒が一帯として多く住んでいるとイスラム地域と表現します。このように地域として認識されるのは、等質的・均質的な事象が空間的に広がっているからであり、そうした現象から想定される地域は等質地域と呼ばれてきました。それに対して、商圏だとか、通勤圏といった地域の場合は、中核となる商業施設や商店街の機能の及ぶ範囲であったり、中心地となる都市へ通勤する範囲であったりするわけで、中心が持つ結節的な機能が及ぶ一帯であることから、機能地域あるいは結節地域と呼ばれています。

 

実際に地域として区分する場合は、等質地域や機能地域の考え方から、大小様々な規模の地域が想定されます。狭い場合は市町村内を地域区分することになるでしょうし、広くは世界の文化圏や類似した自然環境の地域を考えてみることもできます。一般に、区分の指標として自然環境のほか、政治・行政、産業・経済、文化などの人文現象を重視するため、国家や行政の範囲が地域の目安になることが多いようです。

 

例えば日本の国内を地域区分する場合、日本は大きくは四島から構成されるので、本州と北海道地方、九州地方、四国地方にまず区分されるでしょう。実際に国の出先機関の管轄区域でもそうですし、旧国鉄のJR各社への分割でも、本州以外の三島は別会社として構成されています。

 

本州をどのように地域区分するかは難題ですが、人文現象のデータの入手可能性から、都道府県の行政区画を基盤に地方に分けることになります。一都六県の関東地方、岡山県・鳥取県以西の中国地方と福島県以北の東北地方は確定的ですが、それ以外の地方については、考え方によって区分が異なってくるようです。三重県は明治期以降近畿地方に区分されてきましたが、近年では東海地方の一部となっています。名古屋の発展に伴いその都市圏・勢力圏に組み込まれるようになったからです。また、新潟県は気候環境の類似性から北陸三県の延長上にあり、広域の北陸地方として扱われてきましたが、近年では新幹線や高速道路による東京との結びつきから、広く東京圏の一部として考えられることもあるようです。たとえばNHKの「各地方向け地域放送」の地域区分では、関東甲信越地方に区分されています。その一方で新潟県は、電力会社の営業地域では東北電力の傘下にあります。長野県や山梨県は自然環境の類似性から中部地方の中央高地に区分されますが、国の出先機関の管轄では別々になることもあり、一例として前者は北陸信越陸運局の、後者は関東陸運局の管轄です。ちなみに福井県は東海地方といっしょに中部陸運局の管轄下に入っています。

 

上述のように、「地域」は区分に用いられる指標や地域の考え方によって異なってきますが、その地域自体が時間・時代によって変容することにも着目したいものです。その好例として、筆者の住む千葉県浦安市とその隣接地域の一帯をあげることができます。浦安は1960年代まで東京近郊の半農半漁の町でしたが、海面の埋め立てと東京メトロ東西線・JR京葉線の開通で急速に変貌しました。埋立地の一部はディズニーリゾートや鉄鋼の流通・加工用倉庫群となり、市街化が進んだ浦安は東京のベッドタウンとなりました(詳細は拙著『地域発見と地理認識』序章参照)。

 

浦安のみならず、どの地域でも歴史的変化がみられるはずで、そうした変遷をたどることで根源的で本質的な地域の特性を探り当てることができそうです。

 

 
写真1 漁師町時代の浦安(1969年筆者撮影) 

市内中央部を流れる境川には、小型の漁船が多数係留されていた。

 

 
写真2 写真1と同じ場所から撮影した最近の浦安(2020年筆者撮影)