ぼちぼち日録

春告鳥

2023年03月06日

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午後3時ごろ、ケータイが鳴った。

 

「あのう、わたし、春風社にいたMです。石橋さんに会いたくなって、春風社に電話したら、退職されたと聞いたもので…」

 

………。まさか、あのMさん? どうして今ごろ?

 

14、5年前だろうか? Mさんは、春風社が新卒の営業担当を募集したときに入社した。

有名女子大学を卒業し、かわいく、美人。男たちにモテた。

2年ほど勤めただろうか。

わたしが仕事上の注意をすると、だまってスッと席を立ち、

しばらく戻らないことがあった。

トイレで泣いているのだった。

 

こんな情景は、他の新入社員との間にもあった。

バカ正直なわたしは、ストレートな物言いで容赦なく注意した。

有名大学をでたばかりの、他人から注意されたことのない若者たちは、さぞやプライドを傷つけられただろう。

 

「今どうしてるの?」

と聞くと、

「その後勉強をし直して教師をしています。39歳になりました。結婚して子どもが3人います。

石橋さんに感謝しています。あの頃注意していただいて……」

 

目頭が熱くなった。

再会を約束し、ケータイを置いた。