武蔵小杉での用事を終えて、外に出るとひどい雨。
濡れるのを覚悟で駅の方向に走り出したが、
ひょいと向こうをみたら良さげな飲み屋風の看板が目に入った。
急に気が変わった。この店に入ろう!
こぢんまりした店内に客はなく、ひょろっと背の高いおやじさんが迎えてくれた。
ビール、山菜の天麩羅、焼いたサワラを注文する。
どれも旨かった。
大袈裟ではなく、店主の人生が沁み込んでいるような、そんな味。
「私は今年80歳になってね。この店を始めて30年。中学、高校はこの辺の学校だったんだ。その頃は一面畑でね・・」。
駅近のタワーマンション、小洒落た店をつまらなく感じていた私に、
昔の武蔵小杉の風景は刺激的だった。
おやじさんの話は続く。
「山が好きでね。休みの日はあちこちの山に行くんだ。山小屋を持っててね、今は孫と行くのが楽しみでねぇ・・」。
楽しかった。最高の雨宿り。
* * * * * *
数日経ち、そんなことがあったと友人に話したところ、
「うちの小6の息子がね、この前親切な方と出会って・・雨の日、傘をささないで歩いていたら、中年の男性が傘をさしてくれて・・僕は車だから持っていっていいよ、とその傘をいただいてきたの」。
雨は、やさしい物語を生む。