小雨が降るなか、私は中目黒商店街を歩いていた。
ある店先にピーマンがぎっしり詰まった大きな箱が2つ置いてあり、
マジックで「詰め放題400円」と書いてある。
その前で男が一人腰をおとして、店の女性とレジ袋にピーマンを詰めている。
私は思わず「安い !」と声をあげた。
男が振り返る。
(オォ ! イケメン)。驚くほどイケメンだ。30代半ばくらいかな?
男は「無農薬だって。あなたの分まで買ってあげますよ」と言う。
(え?! 通りすがりの私に?)
びっくりして一度断ったが、彼が怪訝そうな顔をしたので、厚意に甘えることにした。
私は気をよくして、
「イケメンさん、もしかしてテレビとかに出ている人?」と言うと
「いえ・・」
「ハーフ?」
「そう言われるけど、違う」と。
次に私は店の女性に、
「どうしてこんなに安いんですか」と聞くと
「規格外だからよ」「時々でるのよ」と。
3人でしばしオシャベリをする。
しばらくして男は800円を払うと、レジ袋いっぱいのピーマンを手に帰ろうとした。
女性は「待って」と奥から茶色の紙袋を持ってくると、
「電車に乗るんでしょ」とピーマンをその紙袋に入れて渡した。
男は帰っていった。
私は、ありがとうと手を振った。
大阪から来たという彼は、これから葛西の知り合いのところに行って明日帰るという。
もう会うこともないだろう。
都会の片隅の、ほっこりした一時だった。